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【台湾商標法】「不専有の申し立て」制度の紹介

2022-09-01


不専有の申し立て制度とは?
  商標法は、第29条第3項において「商標の模様に識別力を有しない部分が含まれ、且つ商標権の範囲について疑義を生じさせるおそれがある場合、出願人は当該部分について権利を専有しない旨を申し立てなければならない。権利を専有しない旨を申し立てない場合は、商標登録を受けることができない。」と改めて規定しています。本条の内容から、商標の模様における部分が(1)識別性を有さず、且つ(2)商標権について疑義を生じさせるおそれがある場合、当該部分につき不専有を申し立てる必要がある、ということがわかります。いわゆる「不専有の申し立て」とは、商標権者がその当該識別性を有しない部分につき商標の専有権を単独で主張しないことを表すことを指します。

不専有の申し立ての目的
  商標法において「不専有の申し立て」制度を設ける必要はなぜあるのでしょうか?主に、商標は全体的に識別性を有していれば、商品/役務の出所を表彰する機能を有することになりますが、多くの出願人は広告宣伝の目的のため、商品/役務に関する品質、機能、産地その他の記述的文字、又は広告標語等商標の識別性を有しない文字又は図形が商標の模様の中に組み込んで、一つの商標登録出願をすることが理由です。
例えば、

登録第01906599号商標
商標権者:金門酒廠實業股份有限公司


この商標において、「金門酒廠實業股份有限公司」(デザインされていない会社名称)、「KINMEN KAOLIANG LIQUOR INC」(デザインされていない会社名称)及び「特優58°」(指定商品の記述的文字)は、即ち識別性を有さず、かつ商標権の範囲に意義を生じさせる部分であります。商標登録を受けた後、商標権者が商標権の範囲は模様の識別性を有しない事項を含むという主観的な誤った認知をして、当該部分につき権利を主張した場合、競業者に不利益を与えることになるため、商標の模様が識別性を有さず、かつ「商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれ」のある部分を有する場合、不専有の申し立てを行わなければならないことを定めました。これにより、全体的に識別性を有する商標に、当該商標登録を単独で受けることができない模様につき、当該部分を登録商標から改めて削除する必要がなく、商標が取得した権利範囲を明確にするようにしました。

不専有の申し立てが必要な事項とは?
  商標は、文字、図形、記号、色彩、立体的形状等により構成され得ることから(商標法第18条参照)、これらの要素が若し識別性を有しない状況にあり、かつ商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれがある場合、不専有の申し立てを行わなければなりません。そのうち、商標の要素が識別性を有するか否かは、経済部智慧財産局が制定した「商標識別性審查基準」を参考にすることができます。また、商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれがあるか否かに至っては、「不専有の申し立て審查基準」(以下「審查基準」という)の説明を参酌することができます。通常、当該部分が「同一の業界及び公衆により普通に用いられる文字又は図形」であるか等を考慮して判断します。もし、当該部分が同一の業界又は公衆が普通に用いる文字又は図形であればあるほど、商標権者は当該部分が商標権の範囲に及ぶものであると考えるには至らず、当業者も商標権者が当該部分の専有権を取得したのでは、と容易に疑義を抱くことはないことから、商標権の範囲に疑義を生じさせるに至らず、不専有の申し立てをする必要はありません。これに反して、若し当該部分に少なくとも同一の業界及び公衆が使用するものであって、商標権者が当該部分について商標権を取得しているか疑義を生じさせ易い場合は、不専有の申し立てをするべきとされています。
  「審查基準」においても、専有の申し立てをする必要はない状況も明確に解説しており、現在、よく発生する形態を以下の通り例示する。
(一) 氏名及び氏名と称呼等との結合:
  • 競業者間で自己の氏名を使用する必要があるため、一私人が権利を独占的に専用することは妥当ではなく、商標権の効力が氏名にまで及ぶという疑義が生じることを避けるため、氏名について不専有の申し立てをするべきです。例えば、
    1. 登録第01694149号「」商標における「王家」は王を姓とする家庭を意味しており、不専有の申し立てをするべきです。
    2. 登録第01654620号「」商標における「丁媽媽」は丁を姓とする婦人に対する敬称であり、氏名の含意を必ず伴うものであることから、不専有の申し立てをするべきです。
(二) 会社名称:
  • デザインされていない会社名称は、消費者に与える認知において、営業主体自体を表すのに用いられ、商品又は役務の出所を識別する用とするものではないことから、商標法による保護を受けることができず、当該部分は商標権の効力が及ぶものであるという疑義が生じることを避けるため、「審查基準」はデザインされていない会社名称について、不専有の申し立てをすべきである、と明確に定めています。例えば、登録第02157498号「」商標における「佑電股份有限公司」と「YOUDEN CORPORATION」とは、それぞれ中国語及び英語により記載された商標権者の会社名称であり、不専有の申し立てをするべきです。
(三) 標語:
  • 標語は出願人により創作され用いられるものであるか、又は同一業界間において組合せられた同一文字が使用されることの少ないものである可能性があり、商標権者が当該部分について商標権を取得したか否か容易に疑義を生じることから、不専有の申し立てをするべきです。例えば、登録第02138303号「」商標の「喝到世界的美好」は標語であることから、不専有の申し立てをするべきです。
(四) 文字がデザインされている場合、デザインされていない原文字は商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれのあるものであるから、不専有の申し立てをするべきです。 識別性を有しない文字が、もしデザインされることにより、純粋な記述、普通に用いられる名称、その他識別性を有しない文字であるという印象から脱した場合、識別性を有し、商標登録を受けることができます。しかしながら、その登録後に取得した第三者による使用に対する排他的効力はデザインされていない文字には及ばず、出願人は第三者による当該文字の使用に対して排他権を行使することができません。デザインされていないの原始文字が若し識別性を有さず、かつ商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれのあるものである場合、デザインされていないの原始文字について専有の申し立てをすることで、商標登録をすることができます。例えば、登録第01650829号「」商標について、「江」が氏名であることから、不専有の申し立てをすべきであり、申立ての方式は、「本願の商標は『江』の文字について、商標権を主張しない」とします。

(五) 外国文字:
  • 英語以外の外国文字について、台湾国民の当該文字に対して普及している程度に達していないことから、同業者が不明確な字の意義について争い、商標権の範囲の所在が不明になることを避けるため、識別性を有しないものはいずれも一律に不専有の申し立てをするべきです。例えば、登録第01885151号「」の商標における日本語は、台湾の取引者が普遍的に理解できる文字でない。したがって、「しゃぶ しゃぶ」、「ブッフェ」及び「おやさいたっぷり」を中国語訳した場合、当該登録商標に係る指定役務の記述に過ぎず、識別性を有しないことから、日本語で記載されたいずれの文字についても不専有の申し立てをするべきです。
(六) 商品番号:
  • 商品番号は、業界において共通して用いられる規格ではありませんが、製造業者が自ら提供する異なる商品を区別する方法であって、商標の模様において商品番号が含まれる場合、それが商標権の範囲が及ぶものであるという疑義が生じることを避けるため、「審查基準」は不専有の申し立てをすべきであると規定しています。例えば、登録第01535475号「BMW M1」の商標における「M1」は、指定する自動車の商品の商品番号であることから、不専有の申し立てをするべきです。
不専有の申し立ての効果
  商標が登録された後、商標権者は模様における一部の文字又は図形につき不専有の申し立てを行っても、商標権者は指定商品/役務における「全体商標」の権利を取得することができますが、その権利は独立して商標における特定の部分を使用する権利ではありません。換言すれば、出願時に商標の模様において識別性を有しない部分は、不専有の申し立てにより、商標権者がその後当該部分につき第三者に対して単独で使用して権利[1]を主張することができなくなり、当該部分は商標権の範囲が及ぶものではなく、この制度の設計を通じて商標権者が商標における識別性を有しない部分を根拠として第三者に権利を主張することを回避しています。したがって、不専有の申し立て制度は、審査手続きにおいて、生じ得る商標権の紛争の状況を事前に防ぐ行政措置に過ぎません。
  しかしながら、二つの商標が消費者に誤認混同のおそれを生じさせるか否かに関して、誤認混同のおそれの審査基準の規定に基いて判断するとき、依然として全体商標の模様に基づき観察します。もし、商標の模様において識別性を有しない部分を有する場合、誤認混同のおそれの審査基準5.2.12の説明に基いて、それが商標権の範囲が疑義を生じさせるものであり不専有の申し立てをしていても、疑義のおそれがなく不専有の申し立てをしていなくても、当該部分を商標全体の比較に加えるが、当該部分は商品/役務の出所の主たる識別部分として取り扱われないため、判断時に比較的低い注意力でしか扱われませんが、具体的状況次第であるため、誤認混同のおそれに影響する可能性を依然として排除することはできません。

結論
  不専有の申し立て制度は、商標権者及び競業する同業者に対して登録商標の権利範囲を明確にして、商標権者は商標の模様における専有権を取得していない部分について第三者に対して権利を主張することを避けることを目的としており、「審查基準」において、不専有の申し立てをすべきであるとする事項に対しても詳細に説明がされています。不専有の申し立ての部分と商標とが誤認混同の問題が生じたとき、実務上、不専有の申し立てをした部分が専有権を有しないため、商標権の範囲が及ばず、権利を主張することができないか否かは、「不専用を申し立てた部分を以て単独で権利を主張することができない」ということを主たる考慮要素とし、又は当該部分が係る商標権が類似を構成して、誤認混同の疑義を生じさせるだけで、登録した商標が取り消され得るか否かという問題及びその実務的な見解については今後実際の事例で別途紹介いたします。
 
 
[1] 「商標圖樣部分聲明不專用後如何主張權利問題」,經濟部智慧財產局,商標法令解釋、動態,https://topic.tipo.gov.tw/trademarks-tw/cp-515-860232-85fa8-201.html (最終閲覧日:2022年2月23日)