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【台湾商標法】2021年度行商訴字第28号の行政訴訟の判決による商標法における「同一性」に関する判断基準の解説

2022-09-22

 
  • 前書き:
    商標が出願審査を経て登録がされ、係る商標権が発生した後において、商標の実際の使用態様は登録した図様を原則とするべきであるとされています。簡単に説明すれば、登録した図様をそのまま使用するべきとされています。しかし、事業活動の過程において美観のあるレイアウト、看板の大きさ、包装のデザイン等の要素が常に伴いますが、商標権者は商標自体を変化させて運用した結果、出願した当初の商標の図様と完全に同一でなくなったとき、権利の瑕疵が生じたり、論争になるようなことはあるのでしょうか?実務上、民事紛争においてよく争点となるのは、商標の使用の有無により、「同一性」を有しない疑いが生じ、商標権が取り消されることになるような事件であります。それに関連する判決が引用する条文は、商標法第63条及び64条です。なお、商標法第63条は「商標の登録後、次の各号のいずれかに該当する場合、商標主務官庁は職権で又は請求によりその登録を取り消さなければならない:…二、正当な理由なく今まで使用しなかった場合、又は3年以上継続して使用していない場合。但し、使用権者が使用している場合は、この限りでない。…」と規定しており、同法第64条は「商標権者の実際に使用している商標が登録商標と異なっているものの、一般社会通念上その同一性を失っていない場合、その登録商標を使用していると認めなければならない。」と規定していることを、前提として以下論じて参ります。
「同一性」とはどのような概念なのでしょうか。知的財産局の頒布する「登録商標の使用に関する注意事項」には、「いわゆる同一性とは、実際に使用されている商標が登録商標と形式上多少異なっていても、実質的には登録商標の主たる識別特徴を変更しておらず、一般社会通念及び消費者の認知により、消費者にもともとの登録商標と同じ印象を生じさせるものを指し、両者は同一の商標であると認めるとき、同一性を有し、登録商標を使用していたと認めることができる。登録商標を実際に使用するとき、商標の図様の大きさ、比率、字体、又は筆記の並びの方式、中国語の繁体字簡体字、外国語の字母の大きさ等を変更したに過ぎない場合、通常、形式上相違があっても同一性を失わない。ただし、若し商標において人の注意を引く主たる部分を省略したり、他の言語の単語又は図様を追加することで、原登録商標と著しい相違点が生じ、一般社会通念及び消費者の認知に基いて、使用者が著しい相違点が生じた商標と登録商標とが同一であると認識するに足りない場合、同一性を有しないため、当該登録商標を使用していたとは認めない」と開示されています。換言すれば、商標の同一性の有無の判断は消費者の視点を基準とするものであり、実際の使用態様が消費者に登録商標の図様と同一の印象を生じさせるとき、両者は同一の商標である、即ち、同一性を有すると認められます。しかし、このような説明では非常に抽象的ですので、筆者は最近の実務の例を用いて裁判所が「商標の使用における同一性」を認定した基準及び見解を簡単に分析します。
  • 知的財産及び商業裁判所2021年度行商訴字第28号行政判決:
    • (一)、 事件状況の紹介:
      原告の原権利者-張oo-(美方冰菓室)は1980年5月21日付で、「美芳」という商標につき当時の商標法施行規則第28条第7類の「各種氷菓店、イモアイス店、小吃店(中華系の一品料理店)、飲食店、ホテル、レストラン等の飲食・ホテル及び旅行の役務」を指定商品として、被告-知的財産局-に商標登録出願を行い、同年同月26日に商標名称及び図様を「美芳及び図形」に変更したところ、被告による審査を経て、第00004374号商標(以下、添付図「」を係争商標という)として登録された。2001年1月19日に更新登録が査定された指定役務は「氷菓店、イモアイス店、小吃店、飲食店、レストラン」の役務(以下、係争役務という)であり、2017年2月15日に係争商標権を原告に移転登記する請求が許可された。
      2020年5月14日登録異議申立人-黄oo-は、係争商標に商標法第63条第1項第2号の取消事由があるとして、被告に登録の取消を申し立てていた。事件は被告により審査され、2020年10月30日付で廃字第L01090279号の商標取消処分書で係争商標の登録は取消処分がされるべきだとされた。原告がこの処分を不服として訴願を提起したところ、経済部は2021年3月9日付で訴字第11006301570号訴願により拒絶を決定し、原告はこの決定を不服とし、知的財産及び商業裁判所に訴訟を提起していた。
    • (二)、 争点:
      原告が本件取消申立日(2020年5月14日)前3年以内に係争商標をその指定役務を使用した事実を有するか否かである。
    • (三)、 判決理由の簡単な要約は以下の通りです。
      係争商標「」は、写実的な城門図形、城門の左側にあるコック帽を被った髭面の男の頭部、城門の右側にある親指を立てた手で構成される図形(以下、城門コックの称賛図とする)及び下方において左から右に横向きに書かれた中国語「芳美」の結合であって、「氷菓店、イモアイス店、小吃店、飲食店、レストラン」の役務に使用することを指定している。本件は原告が提出した証拠について以下の通り審理した。
      1. 教育部の公布する「中国語の筆記及び組版印刷に関する方式の統一規定」(甲の証拠3)、原告が氷菓店の経営のために各メーカーと取引のやり取りをした資料(甲の証拠8) 係争商標登録資料(甲の証拠10)、いずれも係争商標が指定役務において使用された事実証拠の資料ではない。
      2. Googleの「美方芋仔冰城」及び「美芳芋仔冰城」の検索結果とネットユーザの原告の氷菓店に対する紹介(甲の証拠1)と、消費者がGoogleのクチコミにおいて添付した係争商標の図様を含んだ商品の包装箱の写真(甲の証拠2)と、原告がオフィシャルウェブページにおいて支店情報を列記した(甲の証拠4は添付図「」の通りである)テレビメディア紹介、原告の原告氷菓店を訪問取材した影像の切り抜き画像(甲の証拠6)の一部の写真は、図様の部分が示すもの又は「美字城門デザイン図形」及び「美方芋仔冰城」、「美方」の結合であり、城門コックの称賛図と「美方冰品」、又は「美方芋仔冰城」と城門コックの称賛図とが結合された図様であり、いずれも係争商標の完全な図様でなく、かついずれも左から右にある「芳美」という中国語の識別部分がなく、係争商標と同一性を有しないことから、これらが係争商標の使用証拠に当たるとは言い難い。
      3. 原告は西湖店の看板及び壁に掛けられている係争商標の看板の写真(甲の証拠7)は係争商標の使用図様であると考えられるが、撮影日がなく、いつ掛けられて使用されたのかを知ることができることに関連するその他の証拠もないことから、本件取消申立日から3年以内の使用証拠であるとして採用することはできない
      4. 上述に基づくと、既存の証拠資料に基づくと、原告が本件取消申立日前3年以内に係争商標を指定役務に使用した事実があるとは依然として認め難い。
      1. 商標権者の実際に使用している商標が登録商標と異なっているものの、一般社会通念ではその同一性を失っていない場合、その登録商標を使用していると認めなければならない、と商標法第64条に明文が定められている。
        いわゆる同一性とは、実際に使用されている商標が登録商標と形式上多少異なっていても、実質的には登録商標の主な識別特徴を変更しておらず、一般社会通念及び消費者の認知により、消費者にもともとの登録商標と同じ印象を生じさせるものを指し、両者が同一の商標であると認めるとき、同一性を有し、登録商標を使用していたと認めることができる。
        また、登録査定となった商法は文字及び図形の結合によりなるものであって、商標を実際に使用するとく、一度に当該文字及び図形を使用し、そのうちの一部につき単独で使用するに過ぎない場合、登録商標を使用したとは認められない(最高行政裁判所2020年度判字第281号判決要旨参照)。
      2. 原告が提出したインターネットの資料及び使用証拠は、いずれも原告が本件取消申立日前3年以内に係争商標を指定役務に使用した事実を認定できるものではなく、上述の通り、原告は係争商標の主たる識別特徴、即ち、城門コックの称賛図と左から右に記載された「芳美」との結合図様を本件取消申立日前3年以内に確実に使用した事実の証拠を提出しておらず、城門コックの称賛図と他の中国語「美方冰品」、「美方芋仔冰城」との結合図様を使用した事実証拠を提出しているが、係争商標は出願登録時に登記した名称は原告の主張する「『美芳』及び図形」の通りであるが、係争商標の図様に関しては、そのうちの城門コックの称賛図の部分を単独で使用したに過ぎず、係争商標の下方の中国語の部分がなく、使用した各当該図様の全体は係争商標の主たる識別特徴を変更しており、一般社会通念及び消費者の認知に基づくと、消費者に係争商標と同一の印象を生じさせることができず、原告も城門コックの称賛図と中国語の「美方」との結合の図様について別途商標登録出願をしている。上述に掲げる判決の趣旨を参酌すると、原告は前記提出した資料が係争商標に属する使用事実の証拠であるとは認め難く原告の主張は採用できない。既存の証拠資料に基づき、原告が本件取消申立日(2020年5月14日)前3年以内に係争商標を指定「氷菓店、イモアイス店、小吃店、飲食店、レストラン」の役務に使用した事実があったとは依然として認め難い。
  • 評析
    本事件の裁判所が原処分を維持する判決をして、取消処分書の決定を認める理由は、主に、商標の使用証拠に基いて判断したものであり、取消処分書から本件判決を以下のいくつかの要点に分けることができます。:
    • (一)、 取消処分書に記載の出荷伝票、取引一覧表、見積書が調査することができる瓶、瓶の蓋、木製のスプーン、木製の箸その他の営業上必要な物品の取引売買証明書から、原告が本事件において提出した係争商標の使用証拠甲証1、3、10等は、いずれも指定役務「氷菓店、イモアイス店、小吃店、飲食店、レストラン」の使用事実の証拠ではない。まず、上述の使用証拠の真実性を問わず、要点は以上のいずれの証拠も当初登録した係争商標を含んでおらず、せいぜい、原告が美芳芋冰城、美芳芋仔冰城の営業上必要とする物品を証明することができるに過ぎず、係争商標に使用の事実証明があるとすることは困難である。
    • (二)、 更に、取消処分書を作成する前の答弁段階において、原告は獲得した賞の賞状、ニュース報道の切り取り画像等を使用証拠として提出しており、また本事件において、甲の証拠1、2、4、6、7等商標の図様を含む各種資料を提出しているが、裁判所はいずれも商標登録時の完全な態様ではなく、原告が自ら任意に文字と図形等を変換した用法であり、又は完全な商標が現れていても使用日を確認することができないことから、取消申立日前三年以内であるか否かについても使用証拠とすることができません。
    • (三)、 したがって、取消処分書から本事件の判決に至るまで、本事件の要点は使用事実の証拠が係争商標の使用基準及び同一性の基準を満たすかにある。しかしながら、原告が提出した大半の証拠は、商標の使用の定義を満たしません、即ち、指定役務のマーケティングの事実証拠でなく、又は、証拠が商標の図様を含んでいても、係争商標の主たる識別特徴が現れてもいません。即ち、城門コックの称賛図と左から右へ記載された「芳美」とが結合された図様について、多くは城門コックの称賛図と他の中国語「美方冰品」、「美方芋仔冰城」とが結合された図様の使用事実の証拠であり、原係争商標とは異なります。また商標登録出願をした時の登記の名称は確実に「『美芳』及び図形」であったが、消費者は、商標の登記名称を把握しておらず、図様を見た時に残る印象でブランドの出所を判別するための商標を認識します。しかし、原告が提起した各使用証拠における当該図様全体は係争商標の主たる識別特徴を既に変更しており、その中の城門コックの称賛図の部分又はその他文字の結合を単独で使用しているに過ぎず、係争商標の下方の中国語「芳美」の部分がなく、消費者が商標を視認したとき、原告が実際に使用態様は下方の中国語「芳美」を省略しているか、その他中国語文字と結合しているため、新たな印象が生じており、原係争商標と結びつきません。
    • (四)、 以上、裁判所は、係争商標は図形及び文字が占める同様の比率で結合された商標(結合された商標とは、簡単に言えば、非純粋な文字の商標のことを言います)であって、実際の使用において一つも欠けてはならず、原告自身が任意に文字の左右方向の変更、同音異字への変更、文字の増減等の用法を行っており、そのうちのいち部分が現れておらず、商標使用が「同一性」を有していると認定し難いと考えており、一般社会通念及び消費者の認知に基づくと、消費者に係争商標と同一の印象を生じさせることができないため、原告の敗訴とする決定を下したことを難なく発見することができます。
    • (五)、 本件事例について、裁判所による証拠が商標の使用を満たすかの審査や、実際の使用方法が原登録商標の図様と「同一性」を有するか否かの判断などの実務における認定の評価の操作方法は興味深いものがあります。出願時が1971年代である係争商標の場合、当初社会大衆は文字を右から左に読む習慣がありましたが、1991年代教育部になって正式に中国語の筆記方法を横書きに変更しました。そこで、本件判決は2021年にされたものであるところ、時間の遷り変わりと背景年代の相違もあり、裁判所は左から右に「芳美」を認知することに拘っていましたが、例えば、原告が提出した証拠が商標の図様及び右から左に記載された「美芳」文字部分、そして「美芳芋仔冰城」を含むとき、使用上の同一性を有するか否かについて、裁判所はどのような視点で本件を審理するのでしょうか?消費者は同様の一つのブランドであると考えるのでしょうか?筆者はこの点は非常に想像を巡らせる価値があると考えております。多くのブランドはいずれも長きに渡って発展していくものであって、中には衰え知らずの百年の歴史を誇る老舗になったものもあります。当時の商標の態様及び使用方法は現在と大きく相違することもあるでしょうが、本事件がこのような状況に該当するのか、使用証拠の提供の不備に過ぎないのでしょうか。読者の皆様の想像と思慮にお任せします。
  • 結論:
    近年、知的財産権の発展が日に日に成熟してきていることから、多くの企業又は個人は、事業を発展させ、商品/役務のマーケティングをする前に、知的財産権のマッピングを予行う概念を備えています。しかしながら、商標権については、出願前に知的財産権の専門家に相談を求め、代表するブランドの商標が取り消され、無効になるリスク及び指定商品又は役務が会社の運営の目標を満たすのかを確認する以外に、既存の商標権も同様に重要であり、登録後の不使用及び使用方法が不正確である場合、いずれも取消、無効になるリスクを有します。したがって、企業又は個人の有する商標権又はその他特許権、著作権等の知的財産権に関しても、企業や個人の利益が損なわれ、せっかく育ててきたブランドが一瞬のうちに失墜するような思わぬリスクを避けるためにも、権利が適切に保護されているか、自己のブランドの強化が必要であるか否か定期的に検査するべきであります。要するに、如何にマーケティング効果を効率的に実現し、運用コストを低減させるというリスク回避行動を行うかは、そのときの大衆が熱中する様々な投資行為に注意するだけでなく、企業や個人の事業の発展において重要な課題を常に深く熟慮する必要があります。
引用文献:
1、商標法
2、註冊商標使用之注意事項
3、智慧財產及商業法院2021年度行商訴字第28號行政判決