両国の商標制度
1、商標の識別性
台湾商標法第29条には「次に掲げる、識別性を具えていない情況のいずれかに該当する商標は、登録することができない。一、指定した商品又は役務の品質、用途、原料、産地又は関連する特性を記述する説明のみで構成されたもの。二、指定した商品又は役務の慣用標章又は名称のみで構成されたもの。三、その他、識別性を具えていない標識のみで構成されたもの。前項第1号又は第3号が規定する情況は、出願人が使用しており、且つ、取引において、出願人の商品又は役務を識別する標識となっている場合に、これを適用しない。商標図案に識別性を具えていない部分が含まれており、且つ、商標権の範囲に疑義が生じるおそれがある場合、出願人は該部分を専用としない旨を声明しなければならない。専用としない旨を声明していない場合は登録することができない。」と規定され、また、中国商標法第11条には、「次に掲げる標章は、商標として登録することができない。(一)その商品の通用名称、図形、規格にすぎないもの。(二)商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接表示したにすぎないもの。(三)その他の顕著な特徴に欠けるもの。前項に掲げる標章が、使用により顕著な特徴を有し、かつ容易に識別可能なものとなったときは、商標として登録することができる。」と規定されていることから、上述の台湾と中国の商標法の識別性に関する条項から、以下の通り整理できる。
(1)
識別性とは何か?商標の主な機能は商品又は役務の出所を識別することにあり、もし、当該標識が商品又は役務の出所を示し、識別することができなければ、商標の機能を有しない。換言すれば、識別性とは、商品又は役務の出所を示すためのものであって、他人の商品又は役務と識別させるためのものである。したがって、両国における商標法の識別性に関する規定は、いずれも標識は商品又は役務の性質を記述するものであるに過ぎず、商標登録を受けることができないものであることに言及している。例えば、指定商品「コーヒー飲料」についての商標「アラビカ豆」は、当該コーヒー豆の原料がアラビカ豆によるものであることを記述している。また、標識は、慣用名称を構成するに過ぎないものであれば、商標登録を受けることができない。例えば、「Aspirin」も薬物のアスピリンであり、広く薬品業者によって、薬品の包装に広く通常使用されている。
(2)
しかしながら、読者各位はお気づきであろうか?先天的に識別性がない標章であっても商標登録を受けることができないということにはならない。両国の識別性に関する法規は、標章を使用した結果、関連する消費者がその標章を利用して出所を認識し、識別できるものであると証明できるならば、後天的に識別性が形成されるため商標登録を受けることができる可能性がある。例えば、台湾のUber Eatsの広告で用いられる「今晚,我想來點(今晩は、頼もうかな)」は、もともと一般的な広告の口語に過ぎなかったが、出願人が多くの事実証拠を提出することにより、広告商標には商標の機能が含まれることが証明されるため、商標登録を受けることができる。
(3)
また、両国は、識別性の規範において非常に大きな違いがある。その違いとは、台湾商標法は、標章における識別性を有しない部分については、「商標不専用の声明」の方式を試してみることで、登録を受けることができるが、中国にはそのような関連規定はない。実務上、中国特許庁は、その方式で商標登録を受けることができないとは明確に規定していないが、依然として一部の出願事例においては上訴段階において不専用の声明をすることにより商標登録を受けることができる可能性がある。しかし明確な法律規定がないことから、その方式を以って商標権の取得を試みたとしても容易ではない。総括すると、両国の識別性に関する規範は、大きな相違点があるとは言えないが、対応方法が若干異なるので、例えば、不専用の声明の有無などについて留意されたい。
2、商標の誤認混同
商標の類似、誤認混同について、商標の最も主要な機能は、出所の表示及び識別にあり、両国に関連する実務においてこれまでも非常に重要な争点であったため、法規範の制定は、他の争議形態と比較しても多く、広かった。例を挙げると、国旗国章と同一又は類似であることや、政府機関や国際組織の標識と同一又は類似であることや、公的な品質管理認証標章と同一又は類似であることや、消費者に品質、産地等を誤認させることは、絶対に登録できない事由であり、他人の商標と類似することにより混同する部分は、相対的に登録できない事由である。よくある類似により混同するため相対的に登録できない事由の規範で以下の通り説明する。
(1)
台湾商標法第30条第1項第10号には、「次に掲げる各号のいずれかに該当する商標は、登録することができない。:十、同一又は類似の商品又は役務について、他人が使用している登録商標、又は他人が先に出願した商標と同一又は類似のもので、関連する消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるもの。…」と規定されている。同号は、台湾の商標出願実務において最も多く引用される条文の一つである。文言的には若干複雑に見えるが、1.同一又は類似の他人の登録商標又は先に出願された商標があること、2.同一又は類似の商品又は役務を指定していること、3.消費者に誤認混同させるおそれのあるもの、という3つの要件に分けられ、商標が消費者に誤認混同させるか判断する方法は、「商標誤認混同基準」に別途規定されており、出願案件ごとに逐一判断しなければならない。
(2)
中国商標法第30条には、「登録出願に係る商標が、この法律の関連規定を満たさないとき、又は他人の同一の商品若しくは類似の商品について既に登録若しくは初歩査定された商標と同一若しくは類似するときは、商標局は出願を拒絶し公告しない。」と規定されている。同項法規は、台湾と大きな相違はなく、いずれも商標が同一又は類似であったり、指定商品が同一又は類似であるこという明確な規定が設けられているが、最も大きな相違点は中国の商標法には誤認混同の文言が現れていないことであるが、それはどうしてでしょうか?実際、中国の商標には、誤認混同の要件が存在しているが、これを他の条文の権利侵害要件に設けているに過ぎない。換言すれば、中国で商標出願をする場合、商標が類似したり、商品/役務が類似しているだけで、主務機関に拒絶される可能性があるのである。
(3)
その他、筆者は、ここで一つ疑問を投げかけたい。現在、両国の誤認混同の法律規定に基づくと、通常、後願商標は登録又は先願未登録商標と同一又は類似していることである。そうであるなら、日後に出願又は登録された商標は、強力なマーケティングリソースにより、消費者に既に登録された又は日前に出願された商標と、日後に出願された又は登録された商標とを誤認混同させる虞があるのでしょうか。答えは、その虞は存在し得る。法規に記載の状況が「順方向の誤認混同」であるのならば、この状況は「逆方向の誤認混同」の状況である。しかしながら、台湾の最高行政裁判所の判決は、「逆方向の誤認混同」の適用がないことを明確に説明しておるため、先願優位の原則を尊重している。一方で、中国も先願登録の原則を採用し、かつ法規には明確な規範もないが、実務において「逆方向の誤認混同」も誤認混同の一種の態様であることを肯定している。以上は、台湾と中国における商標の類似誤認混同に関する審査基準及びその相違点又は共通点である。