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【台湾商標法】2025年 台湾特許法改正草案 - 合案意匠出願制度の導入

2025-05-05 呂尚霖 弁理士


  台湾の特許庁は、2025年3月21日付で特許法改正草案(第2稿)を公表しました。今回の改正草案は、以前に公表された第1稿の改正方向を踏まえ、主に意匠制度に関するものであり、特に「合案意匠出願制度」の導入が注目されています。本稿では、本回の改正草案の主要な改正内容を紹介するとともに、合案意匠に関して今後の実務上で潜在的な課題についても提出します。

コンピュータグラフィックおよびグラフィカルユーザーインターフェースを「物品」として擬制
  現行の特許法第121条では、「意匠とは、物品の全部または一部の形状、模様、色彩またはこれらの組み合わせに対して視覚を通じて訴求される創作である。物品に応用されたコンピュータグラフィックおよびグラフィカルユーザーインターフェースについても、本法に基づき意匠を取得することができる」という規定があります。つまり、現行の規定によりますと、コンピュータグラフィックやグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)は、独立に意匠の対象にならず(実務上では、コンピュータグラフィックやグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)は、表示装置を介して一時的に表示される「模様」または「模様と色彩の結合」として解釈される)、意匠の対象になるために、必ず「物品に応用する」しなければなりません。

  台湾では2020年の審査基準の改正により、画像意匠を実体的な物品に応用する必要がないように緩和され、即ち画像意匠をスクリーンやディスプレイなどの実体的な物品に応用する必要がなく、出願人は画像意匠を「コンピュータプログラム製品」などの非実体的なソフトウェアやアプリケーションに応用することが可能となり、現代の技術発展や産業界のニーズに対応してきました。

  しかしながら、プロジェクション型インターフェースやホログラムなどの新たな表示技術の台頭により、例えばプロジェクションキーボードのような、物品から離れて現実環境に直接投影できる技術が登場した現在では、実体的な物品を「コンピュータプログラム製品」に拡張しても、産業発展の趨勢に合わない状況が生じています。そこで、今回の改正草案では、コンピュータグラフィックおよびGUIそのものを「物品」として擬制し、それ自体を意匠の出願対象となるようにしています

  また、前述したとおり、現行制度においては、コンピュータグラフィックやGUIは、表示装置またはコンピュータプログラム製品に一時的に表示される模様または模様と色彩の結合であると解釈されており、意匠の明細書に記載すべき「物品」とは、表示装置やコンピュータプログラム製品などを指します。すなわち、「物品」の用途は、表示装置やコンピュータプログラム製品によって決まり、コンピュータグラフィックやGUIそのものが特定の機能を有するか否かは問われないようでしました。

  しかしながら、今回の改正草案が発効すれば、コンピュータグラフィックおよびGUIが「物品」として擬制され、それらは特定の用途や機能を有していなければ、「物品の用途」を特定することができません。この点については、今回の改正草案における第121条の改正理由に記載される「前述のコンピュータグラフィック…は、特定の用途・機能を有し、画像や映像とは異なる」(すなわち、日本の意匠法における画像意匠の定義と類似)という内容からも見分けることができます。

意匠のグレースピリオドの延長
   
グレースピリオドについて、我が国は、世界中との調和を図るために、今回の改正草案では、意匠のグレースピリオドが現行の6か月から12か月になるように延長されました。さらに特筆すべきのは、台湾ではグレースピリオドの適用について、出願時にその旨を主張する必要がなく、査定する確定前に主張すればよいです。それに加えて、審査の過程において審査官が出願人による過去の公開事実を引用文献として新規性または創作性を否定した場合でも、出願人は、当該公開事実をグレースピリオドの適用によって排除できる証拠を提出すれば、当該公開事実を排除することができます。

似てる意匠の合案出願制度の導入
  まず、現行の制度では「似てる意匠」の合案出願制度は存在せず、似てる意匠の出願制度に関しては「派生意匠制度」のみがあります。すなわち、同一人が2件以上の似てる意匠を有する場合には、特許法第127条の規定に基づいて、元意匠およびその派生意匠として出願することが可能です。

次に、世界中の流れに合わせて、意匠産業においてよく見られる「同一のデザインコンセプトに基づいて複数の似てる意匠が開発される」という実情を踏まえ、今回の改正草案において、特許法第129条第3項を導入し、即ち「同一の人が2件以上の似てる意匠を有する場合には、一の意匠出願としてまとめて出願することができ、そのうちの一つを元意匠、その他を派生意匠として指定すること」という規定が追加し、いわゆる「合案出願制度」が導入されることになります。

  合案出願制度の導入に伴い、出願人にとって、合案出願制度により、意匠の管理の利便性を高め、出願手続きを簡単にし、産業界の実務的なニーズに対応しやすくなります。一方、特許庁にとっても、複数の似てる意匠をまとめて出願・審査することで、審査効率の向上が期待されます。

  筆者としては、合案出願制度の導入は各界にとって大きな朗報であると考えるが、それでも実務上で幾つかの課題が残されていると思われます。以下に筆者が想定する実務上の課題を列挙します。
 
  1. 合案意匠出願をした後に、似てる意匠を追加することは可能でしょうか?
 仮に出願人が合案出願(甲)を出願し、その中には2つの意匠を含め、意匠Aを元意匠、意匠BをAに類似する意匠として指定しました。その後、出願人が新たな意匠Aに類似する意匠Cを創作した場合、この意匠Cは、既存の合案出願(甲)に追加することは可能でしょうか?
 
 今回の改正草案における第129条の改正説明において、「元意匠と同時に出願されていない派生意匠は、後に合案で追加して出願することはできない」という内容が明記されていることから、上述の問題にはすでに答えが与えられていると思われます。すなわち、意匠Cは合案出願(甲)に追加することはできません。しかしながら、次の問題が派生します。
  1. 合案出願中の元意匠は、別の派生意匠の元意匠となり得るか?
 上記第1点の通り、意匠Aに類似している意匠Cは合案出願(甲)に追加できないため、意匠Cを意匠Aの派生意匠として出願しなければなりませんと想定されます。ところで、現行の改正草案には、意匠Aが合案出願(甲)における元意匠として出願すると同時に、意匠Aが派生意匠Cの元意匠ともなり得るか否かについては、明確に記載していません。筆者としては、意匠Aが合案出願の元意匠であると同時に、別の派生意匠(意匠C)の元意匠としても認められるべきであればよい、と考えています。
  1. 合案出願中の似てる意匠(元意匠以外の意匠)は、別の派生意匠の元意匠となり得るか?
 上記第1~2点を踏まえると、仮に合案出願中の元意匠(意匠A)が別の派生意匠(意匠C)の元意匠となり得るとしても、もし意匠Cが意匠Bと類似しても、意匠Aと類似していない場合、意匠Cは、特許法第127条に記載されている(「同一人は、元意匠に類似せず、派生意匠のみに類似する意匠については派生意匠として出願できない」)という規定および今回の改正草案における第129条の改正説明に記載されている(「元意匠に類似せず、他の派生意匠にのみ類似する意匠については合案出願ができない」)という規定により、意匠Cは合案出願(甲)に追加できず、かつ意匠Aの派生意匠としても出願できないという困難に直面します
 
 このような場合、筆者としては、合案出願(甲)の元意匠(意匠A)を意匠Bに変更するように補正することで解決できると考えているが、仮に合案出願(甲)中に「意匠Aにのみ類似し、意匠Bには類似しない」である意匠Dが含まれている場合、元意匠を意匠Bに指定することができず、意匠Dを合案出願(甲)から分割出願として取り出す必要が生じる可能性があります(下記図1を参照)。
  上記図1において、青色で示された意匠A、BおよびDは、いずれも同一の合案出願(甲)に属しており、意匠Aが元意匠として指定されています。円の重なる部分は、意匠が類似する関係を表しており、即ち意匠Bおよび意匠Dは、意匠Aに類似しているが、意匠Cは意匠Bにのみ類似しています。

  この場合、合案出願(甲)を出願した後に、意匠Cを出願しようとする場合、「元意匠と同時に出願されていない派生意匠は、後に合案で追加して出願することはできない」という規定により、意匠Cは当該合案出願(甲)に追加できないことになります。また、意匠Cは意匠Bにのみ類似し、意匠Aに類似していないため、意匠Cを合案出願の元意匠(意匠A)の派生意匠として出願することもできません

  このような状況において、合案出願(甲)の元意匠を意匠Bに補正すれば、意匠Bを派生意匠(意匠C)の元意匠として出願することが可能となるけど、合案出願(甲)における意匠Dが意匠Bに類似していないので、引き続き当該合案出願(甲)に含めることができなくなるという状況になります。

  したがって、筆者は、「合案出願中の似てる意匠(元意匠以外の意匠)を別の派生意匠の元意匠なり得るか」について、今後明確にされる必要があると考えます。もしそれが認められない場合、図1の意匠Dは独立意匠として合案出願(甲)から分割出願される必要があります。さらに、分割された意匠を合案出願に再度組み入れることができるかどうかという新たな問題も派生し、以下でその点について検討します。
   
  1. 合案出願中の意匠を分割した後に再度組み入れることは可能でしょうか?
 前述の第3点で述べた状況以外に、合案出願から特定の意匠を分割する必要が生じる場合があります。ここでは仮に、合案出願(乙)が意匠A、B、Dを含み、これら3つの意匠はいずれも相互に類似しており(円の重なる部分は、意匠が類似する関係を示す)、そのなか意匠Aを元意匠として指定しているものとする(図2を参照)。
  その後、審査の過程において、審査官が意匠Aおよび意匠Bに対して拒絶理由となる先行技術(赤色の円)を発見し、その開示範囲は、意匠Aおよび意匠Bとは重なるが、意匠Dとは重なりません(図3を参照)。
 図3
  このような場合、出願人は拒絶されていない意匠Dをできるだけ早く登録させるために、意匠Dを合案出願(乙)から分割出願することを選択し、合案出願(乙)には意匠Aおよび意匠Bのみを残したうえで、先行技術は意匠Aおよび意匠Bとは非類似である旨を主張して答申します。

  この時点で、意匠Aおよび意匠Bは、拒絶査定される可能性があるため、意匠Dは独立意匠として先に分割されることになります。しかしながら、もし出願人が後に先行技術による拒絶理由を克服した場合、筆者としては、出願人が意匠Dを再び合案出願(乙)に組み入れる、または意匠Aの派生意匠として出願することを認めるはずと考えています。そうでなければ、意匠Dは、意匠Aと類似している関係がある上、独立意匠として登録を受けることもできなくなってしまうおそれがある、と思われます。

  したがって、筆者は、「合案出願におけるある意匠を分割した後に、それを当該合案出願に再度組み入れることができるかどうか」についても、今後明確にされる必要があると考えます。

意匠の分割タイミングに関する緩和
  現行制度において、我が国では特許および実用新案出願については、初審査または再審査における特許査定(実用新案登録査定)した後3か月以内に、分割出願が可能であります。一方、意匠出願については、初審査または再審査における意匠登録査定後には、分割出願が認められておらず、その分割できるタイミングは特許・実用新案と一致しません。さらに、意匠の審査プロセスは非常に迅速であるため、出願人にとって分割を検討できる期間が極めて短くなっています。特に、合案意匠出願制度が導入された場合、分割するかどうかは、出願人にとって充分な検討期間が必要とするため、分割タイミングの緩和が一層重要となります。

 今回の改正草案では、出願人がより柔軟に意匠ポートフォリオを構築できるようにするために、意匠出願についても、初審査または再審査における意匠登録査定後にも、分割出願を行う機会を提供すべきので、特許法第130条が改正されました。この改正により、意匠も特許・実用新案と同様に、初審査または再審査における意匠登録査定後3か月以内に分割が可能となります。

  今回の改正草案は、意匠制度に大きな影響を与えるものであり、また合案意匠出願制度の導入により、上述のような(あるいはそれ以上の)実務上の課題が発生する可能性があるため、今後も各界で明確化と解決が求められるだろう。

  弊所では、引き続き改正の動きを注目し、必要に応じてその内容について情報をシェアする予定であります。

参考資料:特許法一部条文改正草案(第2稿)
https://www.tipo.gov.tw/tw/cp-86-1001170-bb17a-1.html