最近、台湾芸能界では知財の争いが相次いで起きた。台湾のロックバンド「ソーダグリン(中文:蘇打綠)」のボーカリスト呉青峰が、過去に共同作業していた音楽プロデューサー・林暐哲から著作権法違反という理由で訴えられた。歌曲の著作権の他に、商標「蘇打綠」6件も全数林暐哲音楽社を名義として登録されたので、ソーダグリンのメンバーは自分のバンド名を使用することができなくなった。また、MOMO親子テレビの司会を勤めていたタレント「ブラザーキャラメル(中文:焦糖哥哥)」は、登録商標「焦糖哥哥」を使用してはいけないとテレビ局から内容証明が送られてきて要求された。
一方、ネット時代では様々な情報発信ツールが急成長している中、ユーチューバー(YouTuber)等のネットセレブはマスコミに注目される。一部ビジネスセンスがあるユーチューバーは、商標登録の重要性を意識した上、事務所の名義ではなく、自身の名義として商標を出願登録した。例えば、科学知識系の「理科太太」、英語学習系の「阿滴英文」等。
氏名・芸名商標の出願登録実務
台湾商標法第30条第1項第13号により、「他人の肖像又は著名な氏名、芸名、ペンネーム、屋号がある商標は登録できない。ただし、その同意を得て登録出願した場合は、その限りでない」と規定されている。その中、登録できない氏名等の名称は、「著名」レベルを達するものに限られている。著名でない氏名・芸名等の名称は、原則的には本人の同意を取得しなくても登録できる。
芸能事務所またはレコード会社(以下、「事務所等」をいう)は、ビジネス上の利益に基づき、タレントの芸名または名称を他人に模倣されることを避けるため、通常、事務所等を権利者として所属タレントの名称を商標登録する。出願後、特許庁はその名称が有名であると判断した場合、タレント本人が署名した同意書の提出を求める。
事務所等からの支援や育成が必要であると認識し、または双方の提携関係を考えた上、タレントは事務所等の名義として、自身の芸名・グループ名等の商標登録にあまり文句を言わず、すんなり同意書に署名して渡したのがほぼの状況である。しかし、もしかしていつか事務所等から移籍または独立することになった場合、タレントの氏名権に関わる商標権の帰属問題は、タレントと事務所等との争いにつながりがちである。
タレントはいかに自分の名を守れるか?
- 異議申立て・無効審判で商標を取り消す
タレントから同意書提出があった場合、商標法第30条第1項第13号を理由として取り消すことができない。ただし、仮に当該商標は他の不登録事由があれば、異議申立てもしくは無効審判で商標を取り消す(異議申立ては登録日から3ヶ月内に提出必要なので、登録してから相当な時間が経つと無効審判は通常考えられる)。取り消された商標は、事務所等の権利でなくなり、タレント自身の使用が可能となる。
- 取消審判で商標を取り消す
芸名等の名称が事務所等にビジネスの場面において長期間使用されていなければ、商標法第63条第1項第2号「三年未使用」という事由で不使用取消審判を請求できる。「焦糖哥哥」は不使用取消審判を提出し、商標権者「優視傳播」(MOMO親子テレビの所属会社)の関連登録商標を全て取り消すことができたし、自身名義で商標「焦糖哥哥」を第35、41及び43類の広告・出版物・レストラン等役務に指定して出願登録した。 ただし、事務所等は他人とライセンス契約を締結した場合、不使用取消審判の必要条件として、ライセンシー側の3年以上未使用も求められる。
- フェアユース(公正利用)を主張する
商標法第36条第1項第1号により、「商業取引の慣習に符合する誠実且つ信用できる方法で、自己の氏名、名称(以下略)を表示するが、商標として使用しない場合、他人の商標権の効力による拘束を受けない」と規定されている。だが、裁判所の判決によると、タレントがその芸名を使用する際、「主観的に商標として使用する意図がなく、説明性または指示性の商標使用のみで、客観的に需要者が商標の使用と認識していない」という条件を満たした場合に限り、フェアユースを主張することができる。 実際、タレントがその氏名または芸名等を使用する際、説明性の使用に該当するのが少なく、ビジネス活動での使用がよく見られるので、フェアユースを主張する際、使用の目的または需要者の認識次第、主張が採用されない場合もある。
結論
氏名または芸名等の名称は、商標権で守れる一方、通常の商標と違い、氏名または芸名等の名称自体がタレントまたはユーチューバーの人格権の一つとなる。タレントの人気度やそのブランド価値の向上は、事務所等の支援・育成だけでは成り立つものではなく、タレント自身の努力も不可欠要素だと思われる。そのため、芸名商標の権利帰属は、マネジメント契約を締結する際に考慮しなければならない問題である。後日の争いを避けるため、タレント自身名義とした商標出願登録が一番勧められるが、それができない場合、自分の努力や苦労が水の泡にならないように、せめて共有者として共同出願し、契約書に双方の権利範囲を取り決めておくべきである。
参考情報:
- 中央通訊社《青峰遭北檢起訴 恩師林暐哲提告違反著作權法》,2020年2月24日
https://www.cna.com.tw/news/firstnews/
202002240034.aspx
- 華視新聞《槓MOMO親子台「商標廢止」成功 陳嘉行:焦糖是我藝名!》,2020年3月4日
https://news.cts.com.tw/cts/life/202003/
202003041992593.html