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【知財コラム】2020年4月日本意匠法改正の概要及び台湾・中国との比較

2020-05-15 呂尚霖 弁理士 | 趙君怡 知財アドバイザー

    先日、日本特許庁より新たな法改正を発表した。今回の改正は主に意匠を対象とし、2020年4月1日より施行される。今回は日本改正意匠法の概要に加え、現在の台湾意匠(設計専利)及び中国意匠(外観設計専利)と比較しながら紹介する。

保護対象の拡充
  1. 画像デザイン
     今回の法改正以前、意匠法は「物品」の保護に基づくものであり、画像自体は保護されていなかった。そのため、あらかじめ「物品」に固定され(または組み込まれ)、かつその「物品」に操作の用に供される画像もしくはその機能を発揮した結果として表示される画像のみを保護対象としていた。今回の改正を受け、画像自体が保護対象としたため、「あらかじめ物品に固定されている」という制限がなくなり、すなわち操作の用に供される画像もしくはその機能を発揮した結果として表示される画像であれば、全て保護対象に該当する。例えば、ソフトウェアのアイコン用画像、投影された画像など。なお、単に装飾表現のみを目的とした画像は今まで通り保護対象に該当しない。
 
   それに対して、台湾における画像デザインに関する規定は、ディスプレイ装置を通して表示され一時的に存在する「模様」または「模様と色彩の結合」という外観創作であり、かつ物品に適用して初めて意匠の定義を満たす。つまり、物品に適用する画像デザイン(例えばスクリーンに表示されるゲームの画面)であれば、台湾意匠権の保護対象に該当する。また、「操作の用に供される画像もしくはその機能を発揮した結果として表示される画像」という規定はないため、日本の改正意匠法より緩和されている。
 
   また、中国の外観設計専利について、画像デザイン(graphical user interface、略称:GUI)はGUI自身の設計以外、GUIを応用する製品を明記すべきと規定されている。中国も画像デザイン自体を意匠権として保護することができるが、いくつかの制限がある。例えば、ゲームのインターフェース、及び人と機器とのインタラクションに関係していない図案は保護対象外とし、台湾の規定より厳しいである。
 
   カーナビゲーションアプリケーションを例にとると、起動画面に表示される該当自動車メーカーのロゴ(図一)は、台湾画像意匠の保護対象に該当する。一方、日本は法改正後、該当ロゴは物品の機能を発揮していないため、日本画像意匠の保護対象に該当しない。また、中国の場合、起動画面は人と機器とのインタラクションに関係していない図案のため、中国画像意匠の保護対象に該当しない。次に、ウェルカムライトの投影画像(図二)について、日本は法改正後、保護対象に該当する。台湾においても保護対象から排除されていないため、基本的には的確な出願対象である。ただし、中国では人と機器とのインタラクションに関係していない図案のため、中国画像意匠の保護対象に該当しない。そして、ナビゲーションコントロールパネル(図三)にある各機能を示すアイコンは、台湾、日本及び中国いずれも保護対象に該当する。


図一


図二


図三
(図一~図三、NISSAN台湾ホームページおよび取扱説明書より)
  1. 建築物のデザイン及び内装デザイン
   日本の法改正前、建築物は意匠権の保護対象としていなかった。何故ならば、過去の意匠法は「物品」を保護対象とし、「物品」は動産と考えられるため、建築物など不動産は「物品」と認められず、日本意匠法の保護対象外とされる。今回の改正では、建築物及びその部分的形状は保護対象になった。台湾及び中国の意匠法において、建築物に対する特別な規定はなく、実務的に建築物は意匠権の保護対象に該当する(図四、図五)。
 
   内装デザインについて、通常は壁、家具、照明器具など一体性がない複数の物品が含まれるため、日本の法改正前、これらの物品は一つのデザイン、あるいは組物の意匠として出願できない。今回の改正を受け、内装全体として統一的な美感を起こさせるものであれば、内装意匠として出願できる。それに対して、台湾及び中国において、内装デザインに対する特別な規定はなく、実務的に日本の法改正前と同様、内装デザインは一意匠一出願の原則及び組物意匠の登録要件に満たしていないため、意匠権の保護対象外とされる。


図四  TW D183690S
(台湾智慧財産局の特許検索データベースより)



図五  CN 302830904S
(中国国家知識産権局の特許検索データベースより)


関連意匠制度の拡充

   日本の法改正後、関連意匠の出願期限は本来の「本意匠の出願日以降から意匠公報発行日の前日まで(通常は8ヶ月以内)」から「本意匠の出願日から10年以内」になった。また、関連意匠にのみ類似し、本意匠に類似しないデザインはいままで保護対象外とされたが、今回の改正を受け、このような関連意匠も保護対象として認められる(図六)。

   台湾現行法は日本改正前の制度と同様、関連意匠の出願期限は「本意匠の出願日以降から意匠公告日まで」であり、また関連意匠にのみ類似する意匠は登録できない。一方、中国は関連意匠という制度がなく、同一製品の類似意匠は多意匠一出願で対応可能である。


図六 関連意匠および類似する関連意匠
(日本特許庁ホームページより)


意匠権の存続期間の変更

   日本意匠法改正後、意匠権の存続期間は欧州連合と同じ、「出願日から25年経過した日」となる。台湾では、2019年の専利法改正において、意匠権の存続期間は出願日から10年→15年に延長した。2018年に、中国では意匠権の存続期間は15年に延長することが改正草案に公告されたが、施行日は未確定で、現行法では出願日から10年経過した日である。
 
   台湾、日本と中国の意匠権の存続期間は、下記表にて参照してください。 
意匠権の存続期間
日本 改正前:登録日から20年。
改正後:出願日から25年。
台湾 出願日から15年。
中国 出願日から10年。

複数意匠一括出願の導入

   日本は法改正の前、一意匠一出願の原則に基づき、意匠登録出願は意匠ごとにしなければならないと規定されており、1件の出願に複数の意匠を含めることはできない。ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく意匠の国際登録制度と調和するため、法改正後は、同一製品の複数意匠の一括出願が可能となる。これにより、出願人の負担が軽減されるものと思われる。ただし、実体審査または登録時に、やはり各意匠ごとに審査及び登録を行う。
 
   台湾の現行法は日本法改正前と同じ、1件の出願に複数の意匠を含めることはできない。
 
   中国では、同一製品の複数意匠の一括出願は可能で、上限は10件となる。また、各意匠ごとに審査を行い、単独で権利を主張できる。

間接侵害規定の拡充

   日本は法改正前、業として登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の「製造にのみ用いる物」という「専用品」の生産、譲渡等をする行為は、意匠権を侵害するものとすると規定されていた。このため、意匠権を侵害する製品の完成品を構成部品(専用品でない物)に分割して輸入することで意匠権侵害を回避するような手口で模倣品が輸入されるような事例が発生している。法改正後は、「その物品等が意匠の実施に用いられていることを知っていること」等の主観的要素を規定することにより、専用品でない意匠権侵害品の構成部品の製造・輸入についても意匠権侵害とみなされることとなった。
 
   2008年の台湾専利法改正草案において、間接侵害について「その物品等が特許の問題解決用の主要技術手段に用いられていることを知っているうえ、当該特許を侵害する者に販売の申し出もしくは販売をする行為は、特許権を侵害するものとする。一般の取引において通常取得できる物は、その限りではない」という規定があった。つまり、間接侵害の主観的または客観的要素は他国法と類似する。ただし、台湾は受託製造のメーカーが主流で、この法令が発効すると、訴訟が濫用されることを懸念されているため、結局採用しなかった。現行法では間接侵害の明文化をせず、実務上は民法の共同侵害を適用する。すなわち構成部品は専用品であろうとなかろうと、当該部品が侵害の結果に貢献するという因果関係がある場合、共同侵害に該当する可能性がある。
 
   中国現行法では、間接侵害が明文化されていない。実務上、主観的には他人を侵害行為へ誘導・教唆する故意を持ち、客観的には他人の侵害行為を協力する行為を行い、かつ当該協力行為が侵害行為に密接な関連性がある場合、間接侵害と思われる。例えば、製品が意匠権を実施するための専用部品であると知っている上、意匠権者の許可を得ず、業として当該製品生産または販売する行為は、間接侵害に該当する恐れがある。2018年の改正草案には一度間接侵害の明文化を導入するが、施行日は未確定である。