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【知財コラム】2019年台湾・中国特許審査基準の改正について

2020-06-03 呂尚霖 弁理士 | 趙君怡 知財アドバイザー
2019年、台湾専利法(特許法)の改正に伴い、台湾智慧財産局(TIPO)は審査基準に対して関連改正も行い、専利法とともに2019年11月1日から発効した。その同時、中国国家知識産権局(CNIPA)は《専利審査指南》(特許審査基準)の改正を公告し、2019年11月1日から発効した。今回は、台湾・中国特許審査基準における主な改正内容について紹介する。
 
♦台湾特許審査基準の改正
 
一、 特許査定後の分割出願の緩和
 
  (一)特許査定後の分割出願期限
  
改正前、特許について、初審段階では特許査定後の30日間以内に分割しなければならない。再審査段階において、査定書を受領する前に分割しなければならない。実用新案について、改正前は設定登録後に分割することができない。
  
産業界の需要に応じるため、今回の改正では、特許または実用新案において、分割可能時期は特許料または設定登録料の納付期間と揃い、特許(登録)査定書の送達日から3ヶ月以内に、もとの出願を分割することができる。
 
  (二)特許査定後の分割に関する制限
 
改正前の専利法において、特許と実用新案の分割出願はもとの出願の権利範囲を超えてはならず、且つもとの出願は査定時の権利範囲及び図面に基づき公告されると規定されていた。今回の改正では、今までの規定を保留する一方、より明確に規定するため、専利法施行細則の第29条規定を専利法第34条に組み入れる。すなわち、「分割出願の特許請求の範囲は許可されたもとの出願とは同一発明に属してはならない」及び「許可されたもとの出願の明細書、特許請求の範囲または図面は変更不可」という規定を追加した。
 
二、 無効審判の審査効率の向上
 
改正前、請求人が無効審判を請求後、基本的には1ヶ月以内に理由と証拠を補充する必要であるが、審決前に補充提出された場合、審査官は斟酌しなければならない。その場合、審査日程が遅滞する恐れがある。今回の改正では、請求人の理由・証拠の補充提出期限は、1ヶ月より3ヶ月に延長したが、「期限を過ぎて斟酌しない」という制限も追加することで、審査効率の向上を図る。
 
権利者の訂正請求のタイミングについて、改正前は特に制限が設けられていなかったので、権利者は何度も訂正を請求することで実質的に審査日程を遅らせることに繋がった。今回の改正では、権利者の訂正請求は、答弁通知を受けた後の指定期間(1ヵ月)のみにしなければならない。さらに1ヶ月のみの期間延長は可能である。ただし、訴訟係属中の場合、この限りではない。
 
また、改正前には、無効審判の請求人の意見陳述と権利者の答弁において、明確に回数と期限が規定されていなかったため、両方が延々と意見陳述または答弁を提出し、審査も長引いている傾向がある。その際、審査が遅滞する恐れがあるとTIPOが認定した場合のみ、直接審理することができる。審査中の各手続きの日程をうまく把握できるように、今回の改正では、請求人または権利者の意見陳述または答弁は、TIPOより係る通知書を発行する場合のみに行うことができる。通知書の送達後から1ヶ月以内に意見陳述・応答しなければならない。延長申請(1ヶ月)が許可される場合を除き、期限を過ぎると、参酌されないとする。
 
三、 実用新案権の訂正期間及び審査方法
 
改正前、登録設定後の実用新案権の訂正について、当該実用新案権の無効審判が係属中の場合、実体審査で行うが、無効審判における訂正の請求以外は、方式審査のみである。方式審査を採用すると、訂正により明細書の技術的特徴をクレームに組み入れることが難しいため、実質上訂正が認められる可能性が低かった。従い、今回の改正では、無効審判の係属有無にも関わらず、実用新案の訂正は全て実体審査を採用することになる。
    
訂正期間に関し、改正前には特に規定されていなかった。改正後、無効審判の係属がなければ、実用新案技術報告書の請求がされてから、TIPOにて受理中のみの場合、実用新案権者は訂正を請求することができる。なぜなら、実用新案技術報告書の作成には実体要件の審査に関わるため、実用新案権者に訂正請求の権利を与えるべきである。また、侵害訴訟案件が係属中である場合、訴訟上の攻防を考慮した上、実用新案権者に訂正請求の権利を与えるべきでもある。
 
改正後、無効審判が係属中である場合、実用新案権者の訂正請求は、TIPOより①答弁通知、②補充答弁通知、または③訂正不可に対する応答通知を発行した後の指定期間のみ(送達日から1ヶ月以内)に可能となる。延長申請が許可される場合を除き、期限を過ぎると訂正請求を受理しないとする。また、訴訟案件が係属中である場合、上記3つの期間以外にも訂正請求することができる。ただし、実用新案技術報告書が受理中の場合にも関わらず、無効審判が係属中でさえあれば、実用新案権者は上記3つの期間にしか訂正請求することができない。
 
♦中国特許審査指南の改正
 
一、 孫出願の提出期限と出願人等
 
改正前、孫出願の提出期限は親出願をもとに制限される。すなわち、親出願の特許査定の送達日より2ヶ月以内、または拒絶査定の送達日より3ヶ月以内に、孫出願を提出しなければならない。ただし、子出願に単一性の欠陥があると審査官より指摘され、かつ拒絶理由通知または分割通知書のコピーを提出する場合、この限りではない。上記のように、子出願に単一性の欠陥がある場合、孫出願の提出期限を明確に規定していないため、改正後には孫出願の提出期限は子出願をもとに制限されと規定される。
 
また、孫出願の出願人と発明人は、改正前には特に規定されていないが、実務上では子出願の規定に類推適用する。改正後、孫出願の出願人は子出願の出願人と同一であるべきで、孫出願の発明人は子出願の発明人もしくは一部の発明人と同一でなければならない。これは改正前の実務と同じ内容である。
  
二、 GUIに係る意匠
 
改正前、中国はグラフィカルユーザインタフェース(GUI)に関する意匠の物品名称及び図面提出等について、詳しい規定されていなかった。改正後、GUI意匠の物品名称は、応用された製品名称を含めなければならない。例えば、「GUIを搭載した携帯」、「GUIを搭載した冷蔵庫」等、包括的な「GUI」を物品名称として記載してはならない。
 
また、図面または写真に関し、改正後、意匠の特徴としてGUIのみを含む場合、GUIを示すスクリーンパネルを含む正投影図を少なくとも一枚を提出すべきである。動的なGUIの図面は全ての変化プロセスを含むべきである。
 
三、 審査官の立証責任の増加
 
改正前、技術特徴(TF)が周知技術であると審査官に指摘され、出願人に異議を申し立てされた場合、審査官は理由を説明し、「或いは」相応の証拠を提供しなければならない。証拠提供は必要な条件ではないため、実務では審査官は証拠を示さず、出願人の質疑を拒絶することができる。
 
今回の改正では、区別技術特徴(STF)が周知技術であると審査官に指摘された場合、証拠を提供して理由を説明しなければならない。技術特徴(TF)が周知技術であると審査官に指摘された場合、改正前の規定と同様である。
 
四、 電話相談の内容と連絡手段の緩和
 
改正前、出願人が審査官と案件を相談したい場合、電話連絡は唯一の手段であり、相談内容は方式上の欠陥のみに限定されている。改正後、出願人は審査官と技術への理解または出願書類における欠陥に関し、電話相談またはテレビ会議・電子メールでの手段によって議論することができる。
 
五、 優先審査及び延期審査
 
優先審査に関し、以前は《専利優先審査管理措置》において、特許審査は優先審査の許可日から一年以内完了すべきで、実用新案と意匠の審査は許可日から二ヶ月以内完了すべきであると規定されていた。今回の改正では、審査指南に規定することになり、二重出願の特許には適用しないと追加規定される。
 
改正前、延期審査の制度がなかったが、今回の改正では延期審査の制度を審査指南に規定された。特許は実体審査と同時に、意匠は出願同時に延期審査を提出することができる。延期期間は、延期審査の許可日から1~3年となる。
 
六、 先行技術検索中止の時点等
 
改正前、審査における審査官の先行技術検索中止の時点につき、検索に費やす時間、手間、コストが予期される結果と相応しくなかった場合、検索を中止することができる。今回の改正では、審査官は引用文献を検出できず検索を中止しようとする場合、少なくとも中国特許全文データベース、英語特許全文データベース、中国ジャーナル全文データベース、この3つを検索しなければならない。検索レポートには、改正前は検索分野、データベース及びキーワードなどの検索条件を記載すべきであったが、改正後、検索履歴、最も類似する従来技術が確認できた主な検索式を明確に記載しなければならない。