Ⅰ
. 商品・役務名称と数字との結合
過去弊所が担当した案件として、クライアントより運動設備のレンタルという役務に、アラビア数字「1」あるいは英語「ONE」を用いて出願するという要望があった。この場合、識別力欠如の問題点があったかもしれないが、一体この壁を乗り越えるのだろうか。
台湾商標の識別力に関する審査基準に基づき、単純な数字は商標登録の範囲から除外されるものではないが、一般取引の習慣上、数字は商品の製造日、サイズ、数量等単位を表示するものとして認識される可能性があり、一般消費者はそれを出所を表示したり区別する標識と認識しないため、原則として単純な数字は識別性を有しないものとし、アラビア数字「1」は当然に識別力の審査を克服できないことが分かった。ただし、漢字表記による数字の識別力の審査は、文字の審査原則を適用すべきだと審査基準に規定されている。
一方、外国語表記による数字の識別性の審査は文字の審査原則を適用可否について規定されていないが、今までの実務経験に基づき、また下記Ⅱ.に記載した通り、「ZERO」を含む複数の登録商標が確認されていることから、台湾智慧財産局(TIPO)は基本的に文字として審査を行うことが分かった。しかし、単純な標準文字「ONE」における識別力が認められないリスクを完全に否定できないため、下記のようにONEにデザイン要素を加えて識別力を高めることを提案した。
商標 |
指定役務 |
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第41類「運動設備のレンタル(車両を除く)」等役務。 |
TIPOより公告した《権利不要求を要しない例示》に基づき、「GYM」は「商品或いは役務が提供する者、商店または場所を表示する文字」に該当し、権利不要求を要しない記述であるため、本件商標の商標権範囲は「ONE」のデザイン部分のみになる。デザインされた商標は、比較的に外観上の識別力を有するため、一般消費者に記憶されやすく、また出願する際に類似先行商標が検出されていないので、最終的に登録査定となった。
また、クライアントのもう一つ商標は「gym」と数字と結合した「gym4u」について、特にデザインされておらず、同じ区分及び商品を指定して出願した。本件商標は役務名称である「gym」が含まれているが、アラビア数字「4」及び英文字「u」と結合することで、「4」の英語は「four」で「for」の呼稱と類似し、また「u」の呼稱は「you」と近似しているので、「gym4u」は「gym for you」を意味することになる。
仮に「gym for you」が第41類「運動設備のレンタル(車両を除く)」役務を指定した場合、役務の用途又は特性の説明と思われるので、識別力を有しないと判断される可能性がある。しかし、本件商標「gym4u」は英語及び数字が入り交じって表現したため、消費者は一定程度想像・思考・感受又は推理を運用しなければ、標識と商標又は役務との間の関連性を理解することができないものであり、暗示的標識に該当し、識別力を有することが認められ、登録査定となった。
Ⅱ.
「STRONG ZERO」は単に「STRONG」プラス「ZERO」だけではない
缶カクテル市場に詳しい読者であれば、日本の飲料大手メーカーであるサントリー社が発売した「STRONG ZERO」は馴染みのある商品ではないだろうか。日本における長年のヒット商品「STRONG ZERO」は近年、正式に台湾市場参入を果たし、2019年5月、TIPOに第33類「蒸留酒、アルコールを含む飲料」等の酒類商品を指定して「STRONG ZERO」の商標出願を行った。2019年11月20日、TIPOは本件商標に対する拒絶理由先行通知を発行し、台湾商標法第29条第3項の識別力要件及び第30条第1項第10号の混同誤認を生じさせるおそれがあるとの規定を違反することで、本件の商標登録が認められなかった。
識別力について、審査官は「STRONG ZERO」の「STRONG」は「強い、強烈な」と意味するので、酒類商品に指定された場合、消費者が「風味が強いお酒またはリカー」として認識させるので、指定商品の関連特性の説明にあたり、かつ商標権の範囲に疑義が生じるおそれがあることから、識別力を有していない標識と判断した。誤認混同について、第32類「ビール」等の商品を指定した引証商標「SUPER ZERO」、「ZERO BEER」、「ZERO」及び「黑松沙士ZERO」が審査官に引用され、本件商標とも主要識別部には「ZERO」が含まれており、かつ指定商品が同一または類似するので、消費者に誤認混同される恐れがあり、登録できないと指摘した。
飲料業界において、「STRONG」と「ZERO」はそれぞれブランド名としてよく見かけられた単語なので、一見して応答成功率が低くて、やはりブランドの知名度や使用による識別性等の理由で挽回するしかないよね?と思われがちである。とはいえ、ただ拒絶理由の論理の上で、「STRONG」と「ZERO」を一刀両断して反論を展開すると、到底行き詰まって挽回できない。そのため、最も根本的な方法を選んで、本件商標の先天的識別力が審査官に認められたとともに、各引証商標と類似しないことも説得した上、登録査定となった。今回の応答概要は下記のように示す。
- 商標の識別力を判断する際、商標全体として観察すべきである。複数の単語からなる組合せ文字は、個別単語の意味から離れ、消費者にまったく異なる印象を与えた場合、当該組合せ文字の識別力が認められるべきである。「STRONG ZERO」は「強烈、激しい」と「リセット、虚無、存在しない」という真逆な印象を与えたので、消費者の目にする際、特に「STRONG」と「ZERO」という2つ独立した単語を認識しているわけではなく、むしろ2つ単語を合併して「強烈零」という意味を捉える傾向がある。また、「強烈零」は中国語として既存単語ではないので、「STRONG ZERO」は当然、商品特性を説明する文字として思われないと主張した。
- 商標類否の判断において、商標全体を観察すべきである。表音的な外国語の場合、その最初の字母は類否判断時には比重を大きくして考慮すべきである。本件商標及び4件の引証商標(詳細は下記表参照)は「ZERO」を含むが、消費者は意図的に分割することがなく、商標全体を記憶するはずである。引証商標のうち、最初の字母は「Z」の商標が2件、漢字「黑松沙士」の商標が1件である。本件商標と比べて、人に与える全体印象は類似ではなかった。一方、「SUPER ZERO」の最初の字母は同じ「S」であるが、商標全体は非類似のため、誤認混同させないと主張した。
本件商標 |
第01425274号 |
第01560949号 |
第01587065号 |
第01587094号 |
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- 先行登録商標を確認した結果、類似商品または役務を指定した「ZERO」を含める商標の併存登録例は多数ある。例えば、登録第01433273号「WINEZERO」、登録第00718981号「SUB ZERO」及び登録第01455139号「OZERO」はそれぞれ第32類ビール、第33類各種酒類及び第43類バー、ビールハウスを指定した。上記3件先行登録例は、全て「ZERO」を含める以外、それらと結合する部分はよく日常生活で見かける文字「WINE」、「SUB」で、しかも権利不要求をせずに登録された。さらに、それらは引証商標と同一または類似商標あるいは役務を指定したにも関わらず、併存登録できたため、消費者に誤認混同される恐れがないとし、本件商標の登録も認められるべきだと主張した。
- 先行登録商標をさらに確認した結果、酒類関連商品を指定し、「STRONG」を含める商標も存在するので、「STRONG」を酒類商品に指定された場合、TIPOは識別力を有する文字として認める。例えば、登録第01690797号「
」、登録第0174194号「
」及び登録第01933090号「
」の「STRONG」について、全て権利不要求がされていなかった。
- 本件商標は使用による識別力を取得したことを主張する。当時、台湾では既に「STRONG ZERO」の宣伝活動が大いに展開されており、当該商品のオフィシャルサイトとFacebookファンページを立ち上げるとともに、テレビCMも人気タレントを起用し、抽選キャンペーンも実施された。また、数少ないマスコミ報道やブロガーの投稿等も掲載されている。ただし、本件において、使用による識別力は仮に先天的識別力が認められない場合の最後の切り札でしかないと認識したので、応答書における順番と立場を適宜に把握し、主客転倒にならないよう心掛けている。
上記紹介した案件から、商標に権利不要求を要しない部分を含む状況以外、識別力の有無か、商標類否の有無かの判断に際しても、「全体観察」は大事な基本ルールであることがわかった。また、応答時のポイントとして、できるだけ多くの並存登録例を活用しているか?細かな論点でもよく説明できたか?文章の構成はわかりやすく整っているか?等は要注意。上記ポイントを意識しながら適切な応答を行うと、拒絶理由を克服して登録査定となる可能性も上げられるだろう。